屋根の雪おろしは不要!?よくある注意喚起や雪おろしの危険性を知ろう
この記事について
豪雪地帯での日々の除雪は大変な作業。
中でも屋根の雪おろしは、毎年事故も発生する危険な作業です。
今回のコラムでは、「雪おろしを安全にする方法はない」ということを強くお伝えします。
前半部分では現在WEB上で閲覧することができる、よくある「雪おろしの必要性」や「雪下ろしの方法や注意喚起」を紹介し、その問題点を指摘していきます。また、除雪や雪下ろしに関する事故の実態や雪下ろしが不要なケースが数多く存在していることを解説します。
最後に「雪おろし」に関する判断やフローチャートがよくわかる、協議会や防災科学技術研究所︎のサイトをご紹介します。
このコラムは、私が監修しました!
教授千葉 隆弘Chiba Takahiro建築構造
私は建物の屋根に作用する雪荷重を研究しています。気象データを使って全国各地の雪荷重を計算したり、風の強い地域で発生する雪庇について吹雪風洞実験で検証したりしています。
「屋根の雪下ろし不要論」を唱えるようになったきっかけは、2012年における北海道岩見沢市の大雪です。平年の約1.7倍に相当する最深積雪208cmを記録しました。しかし、雪の重みによる建物の倒壊は少なかったです。実際に現地を調査すると、1mを超える積雪が屋根に残されたままでした。すなわち、建物には、雪をおろさなくてもその重さに耐える性能があらかじめ確保されていることを目の当たりにしました。
現在、WebやSNSなどを通じて様々な情報で溢れています。雪下ろし事故の低減は、正しい情報に基づいた屋根の雪に対する不安の解消が有効だと考えています。
目次
【屋根の雪おろしによる事故が多数!】よくある注意喚起
屋根の雪おろしについては、WEB上にさまざまな情報があふれていますが、危険な方法や間違った情報が混ざっていることがあります!
今回は、よくある注意喚起とそれに対する北海道科学大学の見解、また、そもそも雪おろしは必要かといった点について解説します。
よくある注意喚起
よくある注意喚起として、以下の2点があります。
- 雪の重さで家がつぶれることがあるから雪おろしが必要
- 雪庇は一気に落ちてくることがあり危険なので雪おろしが必要
それぞれの注意喚起に対する見解をお話しします。
注意喚起1:雪の重さで家がつぶれることがあるから雪おろしが必要
「屋根に積もった雪を放置すると、積もった雪の重さで家がつぶれてしまうことがある」という情報が多く出ています。
こちらは、大変不安をあおる注意喚起になっていますね。
北海道では、積雪荷重で倒壊に至るケースとしては、以下の2点が考えられます。
- 老朽化した空き家
- 老朽化した納屋
人が住んでいる家の被害は極めて少ないです。
暖房で温められた熱が屋根に伝わり、少しずつ融雪して積雪荷重が小さくなります。
注意喚起2:雪庇は一気に落ちてくることがあり危険なので雪おろしが必要
「屋根の端から外側にせり出してくる「雪庇(せっぴ)」と呼ばれる庇(ひさし)状の積雪は、天候の変化などで一気に落ちてくることもあり、大変危険です」という情報も多く目にしますね。
確かに危険ですが、自然に落下してきた雪庇に巻き込まれる人身事故は、聞いたことがありません。
一方で、雪庇を下から除去する際に落下してきた雪庇に衝突したケースは聞いたことがあります。
また、雪庇を処理するために屋根に上がり雪庇を踏んで転落したケースは多く、実は雪おろしを行うことによる危険のほうが大きいのです。
雪おろしは不要!
雪おろしをしなくても、家の倒壊リスクは少なく、雪庇の自然落下による事故も起こりづらいため、雪おろしは不要です。
それでも家の倒壊が心配という方にお伝えしておくと、北海道では、市町村ごとに「建築基準法施行細則」にて建物の積雪荷重(雪の重さに耐えられる強さ)を定めています。
例えば、札幌市(一部地域を除く)は140cm、豪雪地域の岩見沢市は160cm、雪の少ない函館市は70cmなど、それぞれの地域で「50年に一度の大雪」を想定して積雪荷重が定められています。
基本的にこれ以下の積雪であれば、雪の重みで家がつぶれることはないとされていますので、雪おろしをする必要はありません。
ただし、屋根からの落雪には注意しておくに越したことはありません。
日中に暖かくなると落雪が頻繁に発生します。
天気予報で翌日の最高気温を確認するとともに、注意喚起に耳を傾けましょう。
【そもそも屋根に登ってはだめ!】よくある雪おろし方法
一般的には、次のような雪おろしの手順が紹介されていることが多いです。
- 屋根に向けてはしごを固定し、足場を確保する
- 命綱とヘルメットを着用して屋根にのぼる
- スコップやスノーダンプを使用して屋根の上の雪を下に落とす
上記のような方法は次のような点でNGです。
NG方法①:安全が確保できない方法が紹介されている
この手順だけで雪おろしはできそうな気がしてしまいますが、実は細かな注意点が抜けています。
例えば、次のような点です。
- ハシゴをどこに固定する?
- 命綱はどこに固定する?
- 屋根のどの部分から雪をおろす?
屋根の形状や周りの環境によっても異なりますし、これでは安全が確保できるとは到底いえません。
WEB上の情報は極めて重要な箇所が抜けていますので、鵜呑みにしてしまうのは大変危険です!
NG方法②:そもそも屋根にのぼってはいけない
一般的には、屋根にのぼっての作業が紹介されていますが、屋根にのぼること自体が大変危険な行為です。
屋根にのぼる際の注意点として、以下のようなことも紹介されていますが、そもそも屋根にのぼらないでください。
- 北海道の建物の屋根は、雪が自動的に落ちていくように滑りやすい材質や仕上げとなっていることが多いので、屋根にのぼる際は注意
- 雪を完全に落としてしまうと屋根材で滑りやすくなってしまうので、雪を10cm程度残すように除雪する
雪より屋根材の方が滑りやすいという注意も誤りで、実際は雪の方が滑りやすいです。
雪庇の除雪は雪庇切りを使って屋根の下から行います。
雪庇が小さいうちに処理しましょう。
大きな雪庇が落下する先に車両があると、天井やフロントガラスが損傷することがあります。
軒先にフェンスなどを設置する雪庇対策ができない場合は、雪庇が小さくて軽いうちに処理することが有効です。
雪おろしには安全な方法はない!雪おろしが危険な理由
基本的には、安全に雪おろしを行う方法はありません。
次のような理由で、雪おろしは危険です!
雪おろしを安全に行える天候は滅多にない!
雪おろしはなるべく気温が低く、風がない日に行うべきとされています。
気温が高いほど「雪おろし日和」と判断する方も多いですが、気温が0℃以上だったり日差しが強かったりすると、屋根の雪が溶けて滑りやすくなってしまいます。
しかし、科学大学のある札幌などでは、気温が低いと風が強いです。
雪おろしに適した気候に巡り会えること自体が滅多にないのです。
作業は2人以上で行なっても危険!
屋根からの落下や雪に埋もれるなどの事故が起こった際に助けたり通報したりできるよう、冬の屋外での作業は2名体制が基本といわれることが多いです。
しかし、2人以上だから雪下ろしを行なって問題ないということではありません!
5〜7人体制でも安全対策が甘く、2名が亡くなってしまった事例もあります。
はしごにのぼったままの作業で事故が多い
雪おろし中の事故で多いのは、はしごや脚立にのったまま作業をして転落する、雪に埋もれるというものです。
はしごや脚立の上では不安定な状態での作業になってしまうので危険です。
また、はしごや脚立の上り下りの最中にバランスを崩して転落する危険もあります。
「雪おろしをしない」のが一番安全な方法!間違った注意喚起に気をつけよう
雪の多い地域で見られる、屋根の上の除雪「雪おろし」。
しかし、雪おろしは屋根からの転落や雪に埋もれるなどの事故にもつながる危険があります。
「雪の重みで家が潰れてしまう」という注意喚起を見かけますが、人が住んでいる家が雪で潰れてしまうことは考えづらいです。
また、「雪おろしをしないと雪庇が落ちてきて危険」という注意喚起もよくありますが、雪庇の自然落下による人身事故の例は聞いたことがなく、雪おろしをするほうが事故のリスクが高いです。
そのため、雪おろしは不要です!
WEB上では、間違った雪おろしの手順が紹介されていることがあります。
安全に行える方法ではないので、決して真似しないようにしてください。
雪おろしは、安全に行う方法がありません。
雪おろしに適した天候は滅多になく、2人以上の作業でも大変危険!
はしごや脚立にのぼったままの作業や、上り下りをする際の事故も多いです。
雪がたくさん降ったからといって、慌てて雪おろしをする必要はないことを知っておきましょう。
同じ北国でも「東北北陸地方」と「北海道」では積雪量や住宅・屋根の構造が違うため【同じ対処ができない】ことを知ろう
東北北陸地方では雪下ろしが必要という慣例があり、屋根に「屋根アングル」というものが付いており、ここにロープを引っ掛けて高所作業ができるような作りになっています。
北海道は積雪量が少なく雪下ろしは不要なため、屋根が雪下ろし前提の作りになっておらず(屋根アングルは付いていない)、高所作業は危険です。
毎年のように東北北陸地方の雪下ろしの様子が放送されるため、雪国=雪下ろしが必要というイメージが付いてしまっているかと思われます。
「雪おろし」の知識やタイミング、フローチャートがわかる専門サイトをご紹介
札幌市を拠点に民間企業や地域団体、教育機関、行政機関などが参画している協議会のサイトでは、雪下ろし判断のフローチャートを公開しており、基本的に雪下ろしを行わない方向で注意を促しています。
▶︎ウィンターライフ推進協議会「雪下ろしのコツ」
国立研究開発法人防災科学技術研究所︎では、「雪おろシグナル」というサイトを公開しており、住んでいる地域の積雪重量で雪下ろしのタイミングの目安を知ることができます。
▶︎防災科研「雪おろシグナル」
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積雪といった地域独自の課題を北海道で、北国ならではの建築について学べます。
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