心不全の仕組みを明らかにして予防と治療へ応用する

心不全は癌とならんで主要な死因であり、生活の質を低下させる疾患としても重要な疾患です。日本ではまだ広く知られていませんが、慢性化した心不全がある(慢性心不全がある)場合は、癌と同等あるいはそれ以上に余命が短くなります。しかも、心不全は治療を開始しても、症状の悪化と部分的な回復を繰り返しながら次第に進行して死に至る経過をたどることが多く、現在も「完治」させることができない疾患の一つです。日本では外来患者だけでも120万人以上の心不全患者がおり、今後も増加が予想されることから社会的にも大きな問題となっています。
心不全の原因として虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や糖尿病など数多くの疾患が知られている一方、心不全が悪化していく仕組みはまだ十分明らかになっていません。しかし、心臓の収縮・拡張の基本単位である心筋細胞が、心不全の経過とともに少しずつ死んでいくことが重要です。心筋細胞はほとんど再生しない細胞であるため、心筋細胞の細胞死は心臓の機能が不可逆的に低下する主要な原因の一つと考えられています。
心筋細胞に細胞死が起こる仕組み(分子機序)には複数のタイプがあることが分かってきていますが、虚血(血液循環の障害)によるネクローシスと炎症・酸化ストレスによるネクロプトーシスに注目して研究を進めてきました。また、細胞死が起こることを防ぐために心筋細胞が持っている仕組みについても併せて解析しています。細胞死を引き起こす仕組み、細胞死から護る仕組み、それぞれは細胞内外のシグナル伝達経路と代謝経路によって構成されています。画像はミトコンドリア内(OM:ミトコンドリア外膜、IM: ミトコンドリア内膜、Matrix: ミトコンドリア基質)に局在して細胞死を制御している蛋白キナーゼ系が、IGF-1で誘導される細胞保護シグナルによって細胞保護に機能する場合、過剰に産生された活性酸素(ROS)によってネクローシス誘導に機能する場合、を示しています(Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis. 2020;1866:165851)。こうしたシグナル経路と心不全の誘因との関連を解明することを通して、心不全予防や慢性心不全治療法の開発を目指しています。

三浦 哲嗣 教授
- 学位/博士(医学)
- 研究分野/心不全、虚血性心疾患、細胞シグナル伝達
- 研究テーマ/心筋ネクローシスを制御する蛋白キナーゼ系の細胞内局在と機能
心筋ネクロプトーシスの機序に関する研究
糖尿病性心筋症の機序と治療に関する研究