COOPERATION

研究紹介

研究・産学連携

「自然の不思議」を科学して、未来社会に役立つ「形」を考える。

蟹江 俊仁 教授

私たちは、構造工学を基本として、未来に役立つ「形」について研究を行っています。たとえば年々深刻さを増す地球温暖化による影響に対して、私たちはどのような対応がとれるのか?既存構造物の維持保全と新規構造物の企画、設計、開発等を通じて、現在進行形の様々な現象を科学して、適切な対応方策を考えます。その研究内容は次の大きな三つの柱で構成されます。

    1.地球温暖化への対応・地球科学を志向した研究

    地球温暖化はこれまでに経験したことのない、さまざまな環境変化や環境擾乱をもたらしています。こうした影響は特に寒冷環境下でいち早く顕在化すると言われており、さまざまな課題が発生し始めています。例えば、地盤が二年以上にわたって凍結したままの状態にある「永久凍土」は、さまざまな環境変化と環境擾乱の影響により融解が進展していると言われています。北半球の陸地面積の25%を占めるこれらの地域は、広大な樹林帯での光合成により気中の二酸化炭素濃度を下げる働きを担っているだけではなく、融解することにより地中に固定されていた二酸化炭素の解放や眠っていたさまざまな菌の放出を招きかねません。本研究室では、環境変化に伴う永久凍土の融解過程を数値的にシミュレーションするとともに、JAXAやJAMSTECといった我が国を代表する研究機関と連携して現地の今を計測・観測しながら、その保全対策の提案などを通じて人類の未来を考えています。

    図-1 人工衛星画像によるInSAR分析が示す永久凍土地帯での森林火災後の地表面沈下観測結果
    図-2 InSARによる沈下量(上)と数値シミュレーションの沈下解析結果(下)

    (a)表面植生が健全な場合

    (b)森林火災により表面植生が損傷した場合

    動画-1 気温上昇を受けた時の凍結面季節変動のシミュレーション結果:表面植生が健全な場合(a)に比べて、森林火災により表面植生が損傷した場合(b)の季節変動は変動幅が大きくなりながら、凍結面が年々低下していくことが分かる。加えて、水の集まりやすい集水地形にある場所では、冬場の凍上量も大きくなり、地表面の上下変動量も拡大する。

    2.自然現象を活用する研究

    「凍結」現象は寒冷地域における悩ましい問題の一つかもしれません。しかし、「凍結」という自然現象を積極的に活用することで生まれるテクノロジーもあります。たとえば、パイプインパイプという二重管構造の中詰材を積極的に凍結させることで、曲げに対する大きな変形が許容できるようになり、従前にはない高い靭性が発揮されます(特許:特願2008-327185 埋設用二重管,該埋設用二重管を有するパイプライン 平成25年3月27日)。一方、地盤凍結工法は地中の任意の場所に高い強度と止水性をもたらすことができる上、融解させることで原状回復可能な自然に優しい工法です。これを活用するためには、凍結に伴う膨張量と膨張圧力を制御するための高いテクノロジーが必要であり、数値解析やシミュレーションにより最新テクノロジーの今を支えています

    写真-1 単管のままのパイプはBrazier効果により簡単に破損してしまう(左)のに対し,凍結パイプインパイプは高い靭性を示すことがわかる(右)

    (a)中空断面の単管パイプ

    (b)中詰材の砂を凍結させたパイプインパイプ

    動画-2 写真-1と写真-2の曲げ変形動画:中空単管パイプの場合(a)はBrazier効果として知られる「断面の楕円化」が発生し、圧縮側の局部座屈により破壊が生じているのに対し、凍結パイプインパイプ(b)の場合は大きな曲率まで滑らかに変形し、引張側の破断により破壊が生じていることが分かる。

    3.身近な生活現象に対する安全で快適な生活の提案

    農道や林道、発展途上国における未舗装路などでは、自動車の繰返し走行により周期性の凹凸パターンが砂利や砂の路面表面に形成されることが知られています(写真-2)。このような現象は非線形科学に属する自己組織的なパターン形成問題として、多くの研究者がその現象解明に取り組んできました。その一方で、アスファルトやコンクリートなどで舗装された路面でも、その表面に積雪や凍結が見られる場合、自動車の繰返し走行により原因不明の周期的な凹凸パターンが、自然発生的に形成されることが知られています(写真-3)。北海道などの積雪寒冷地では「そろばん道路」と呼ばれているもので、この現象の発生が走行車両の制動不良やスピン事故などの深刻な車体制御問題を引き起こすことから、その防止抑制技術が求められています。しかし、未舗装路にできる凹凸パターンとは異なり、その生成原理には水・雪・氷といった、温度や圧力の条件によって相変化を伴う複雑な熱化学的現象も絡んでいるため、その生成機構は未だに明らかにされていないのが現状です。本研究室では、室内再現実験や現地観測、数値シミュレーションなどにより、その生成機構の解明に挑むと共に、防止抑制技術の開発に挑んでいます。

    写真-2 凹凸起伏が自然発生した未舗装路の一例
    写真-3 積雪凍結路面の凹凸起伏の観測結果(そろばん道路)
    写真-4 室内シミュレーション実験装置
    図-3 乾燥砂を用いた発生と成長の過程

    動画-3 積雪凍結路面での「そろばん道路」生成・成長過程のタイムラプス映像

    動画-4室内シミュレーション実験装置による乾燥砂による規則性不陸生成の様子

    蟹江 俊仁 教授

    • 学位/博士(工学) (構造工学、地震工学)
    • 研究分野/構造工学、寒地環境工学、数値解析学
    • 研究テーマ/地球温暖化がもたらす永久凍土地帯の凍結・融解への影響評価と地形変化に関する研究、積雪凍結路面に発生する「そろばん道路」の生成・成長メカニズムの現象解明